「人」に寄り添う建築を追い求める楽しさ。

向佐葉奈子(むかさ・はなこ)
2018年卒業
株式会社メック・デザイン・インターナショナル
デザイン・ソリューション1部
土屋沙友(つちや・さゆ)
2017年卒業
株式会社メック・デザイン・インターナショナル
営業推進・PM部 兼 FMコンサル室

※掲載内容は、取材当時のものです

丸の内をはじめ、ビジネス街のオフィスやホテル、商業施設などの建築のインテリアデザインに数多くの実績がある株式会社メック・デザイン・インターナショナル。ここで働く土屋沙友さんと向佐葉奈子さんは、本学でも先輩・後輩として学びました。現在は同じ会社で活躍する二人に、大学での学びや、それが現在のお仕事へどのようにつながったのかを伺いました。

「人」に寄り添う建築を、
濃密に学べる環境を求めて。

−二人が建築工学科に入学されたきっかけを教えていただけますか? 土屋:私はもともと教育学部の志望で、高校3年生の1学期まで文系でした。建築に惹かれたきっかけは、家庭科の授業で「サザエさん」の住宅の間取りについて学んだことです。あの一家が住む家はどんな間取りで、どういう動線になっているのか。そこにはどんな理由があるのかとか……。何気なく見ていたアニメの中の住宅にも、人の行動や生活習慣、家族の関係性に応じた工夫が詰まっていることを知って、建築に興味が湧いてきたんです。

そこで、3年生の夏休みから建築学科を目指すことにしました。その中で日大生産工学部を選んだ決め手は、当時の「居住空間デザインコース」の存在です。建築の中にもさまざまな分野がありますが、私は特に住まいに興味があって、ここならそれをメインに学べる、と感じたからです。実際に入学してみると、少人数制で、著名な先生の下で濃密に学べる、とても刺激的な環境だと感じました。思い切って方針転換して良かったです。

向佐:私が建築に興味を持ったのは、小学生の頃です。TV番組の「大改造!!劇的ビフォーアフター」が大好きで、「匠」の手によって依頼者たちが笑顔になっていくのを見て、建築に憧れを持つようになりました。

生産工学部の建築工学科に決めた理由は二つあって、一つは、住空間について深く学べそうだなと感じたこと。私は建物の構造や外装よりも、人が生活する空間を工夫して設計することで、誰かを喜ばせたいという思いが強かったのです。いくつかの大学を調べてみて、ここなら、そんな「人」に寄り添った建築が学べるのではないかと思いました。そして二つ目は、先生が魅力的だったこと。オープンキャンパスで体験授業を受けたのですが、その先生が優しく温かい雰囲気で、建築についてとにかく楽しそうに語っているのがとても素敵に思えました。

名作に触れ、
手を動かしながら学ぶ。

―大学4年間の学びを社会人となった今振り返ってみて、この学科の特徴はどんなところにあると思いますか? 土屋:著名な建築家で居住空間デザインコースの初代塾長だった宮脇檀先生による、「眼を養い、手を練れ」という言葉があります。これは、モノを見る眼を養うことと、自らの手を動かしながら考えることを表した教育方針なのですが、この精神が息づいていると感じます。

例えば、私たちが毎日長い時間を過ごした製図室には、あらゆる名作家具が置かれていて、実際にそういう椅子に座って授業を受けたり、製図したりしていました。また、先生が設計した住宅や、お知り合いの家具の工房を見学させていただくなど、「現場に行って見る」という機会も多かったですね。そうやって一流の作品を日常的に見て、触れる中で、自然と「眼」が養われていく。思い返すと、とても贅沢な経験だったと思います。

向佐:「手を練る」ということで言えば、スケッチの経験をたくさん積むことができました。最初はCADなどのソフトを使わずに手描きするのが基本です。4年間さまざまな課題に取り組んできましたが、毎日のように自分の手で描いているうちに、空間に必要なもの、足りないものが自然と見えてくるようになりました。大学でそういう力を鍛えられたので、今の仕事でも、資料として綺麗に整えて見せる時はCADなどを使いますが、普段は手で描くことが多いですね。打ち合わせ中にささっと描いてイメージを共有するなら手描きの方が速いし、描きながら頭の整理ができる気がします。デジタル主流の時代ですが、これからも「手」で描くことは大切にしていきたいと思っています。

教室では、中村好文デザインの「ララバイ」、ジョージ・ナカシマの「ミラ・チェアー・ロウ」などの名作椅子に実際に座りながら建築を学ぶ

―学内の雰囲気はどうでしたか? 土屋:少人数制ということもあり、先生方との間に一定の緊張感はありつつも、気軽に相談しやすい雰囲気でしたね。先生方は授業以外の場でも何かと気にかけてくださって、いろいろと相談にものっていただきました。本当に家族のような存在ですね。

向佐:先輩・後輩との交流も多かったですね。居住空間デザインコースでは半期に1回、1年生から4年生までが一堂に会する学生主体のパーティーがありました。全体の企画や内装、予算管理や料理に至るまで全て自分たちで計画し、実行するのですが、その中で学生同士の仲が深まっていったと思います。さらに、こうしたイベントや旅行の企画・運営を通じて、仲間と協力してひとつのプロジェクトを成し遂げていく経験を重ねられたことも、大きな学びとなりました。

二人が勤務する、メック・デザイン・インターナショナルの
打ち合わせスペースにて

土屋さん、向佐さんが所属したゼミ
少人数でディスカッションを重ねた

1年生から4年生が一堂に集うパーティー
学生主体でプロジェクトを企画・実行した経験は、仕事にも活きている

課題を通じて、
磨かれた思考力。

―どんな授業や課題が印象に残っていますか? 土屋:やはり一番は設計の授業ですね。先生によって設計に対する考え方が異なるので、4年間でさまざまなアプローチに触れることができたのは貴重な機会だったと思います。また、毎週のようにみんなの前で自分の考えをプレゼンテーションしなければいけないので、論理的に考え、説明する力が鍛えられたように思います。

向佐:確かにそうですね。プレゼンでは、まずコンセプトを説明するのですが、そこで先生を納得させられないと図面や模型は見てもらえないことも。どうしてこういう形なのか、こういう動線なのか、つまりは設計者の「大切にしたい考え方」を、しっかりと設定することが何より重要だと教わりました。

―卒業設計はどのようなテーマでしたか? 土屋:私は、生まれ育った大田区羽田の町工場の多い地域を題材に、「工場と集合住宅の合体する施設」を設計しました。昔ながらの町工場で働く人たちの、この地域らしい温かな営みと、新しく流入してきた住民のスマートさが溶け合い、共存するための方法を、設計を通じて探ってみたかったんです。入学当初から抱いていた、「人」のための空間づくりの集大成のような設計になったと思っています。

向佐:私の卒業設計は、「高尾山の近隣地域に建てる集合住宅」でした。自然豊かな地域における建築は環境に配慮することが重要だととらえて、老朽化したら取り壊す、のではなく、「環境が変わっても持続的に使い続けられる」設計に取り組みました。建物の中に「変化する部分」と、「変わらない部分」を設計し、それをコントロールすることで、人が手を入れながら住み続けられる住宅を目指しました。

土屋さんの卒業設計「工場と集合住宅の合体する施設」
町工場の多い地域の文化や人情に新しく住む人びとが溶けこむことをテーマに

向佐さんの卒業設計「高尾山の近隣地域に建てる集合住宅」
高尾山麓に,手を入れて住み続けられる,変化と普遍の集合住宅を提案した

建築学科での経験を、
それぞれの立場で活かしていく。

―現在のお仕事について聞かせてください。 土屋:二人とも、三菱地所グループのメック・デザイン・インターナショナルに就職しました。私は営業として、既存ビルのリノベーション計画やオフィスの内装設計などを、営業を通じてご提案しています。同時に、オフィスのインテリアに特化したコンサルチームも兼務しています。もともと「人」に関わる設計をしたくて建築の道に進んだこともあり、営業という、人との対話を通じて課題解決していく仕事は自分に合っていると思います。

仕事をしていて感じるのは、建築の知識はもちろん、さまざまな情報、多様な視点が、デザインに影響すること。大学生活の中で先生方から教わった、多分野にわたる知識や考え方、そして「眼を養」ってきたことが一体となって、お客さまへの提案に活かされていると思います。また、人と話す機会も多い仕事ですが、その際は大学時代にたくさんプレゼンテーションをして鍛えられたことが役に立っていると感じます。

向佐:私はオフィスや共用部などの内装デザインを設計するチームに所属しています。土屋さんが営業として獲得してきた案件を、私がデザインするなど、二人で協力して仕事をすることもあります。

大学時代には「どうしたら居心地が良い空間になるか」「負荷なく利用できるか」「使い勝手が良いか」など、使う人のことを徹底的に考えることを教わりました。今の仕事でもそうした視点を大切に、空間づくりを行っています。その試行錯誤の過程は大変ですが魅力的で、そうして工夫を重ねたデザインが多くの工程を踏み、実際に形になっていく様子を見るとやりがいを感じます。

二人の勤務先の執務エリア

熱意と主体性を携え、
全力で挑戦し続けてほしい。

―最後に、受験生に向けてメッセージをお願いします。 土屋:入社6年目となった今こそ、営業という仕事にも慣れてきましたが、入社直後は「大企業の方々と、こんなにも日常的に接するのか」と驚いたものでした。それでも臆せず乗り越えることができたのは、やはり建築工学科での経験が大きいと思います。さまざまな課題に全力で取り組み、みんなの前でその成果を発表し、厳しくも温かな評価を受ける。この経験で、度胸がつきました。

これから入学するみなさんにも、たくさん挑戦してほしいと思います。ここは自分次第でどんなことでもできる環境が整っています。課題にどのくらい時間をかけて取り組むかも、先生にどれだけ話を聞きに行くかも、自分次第。でもその分、本気で取り組めばきっと力がつくはずです。

向佐:そうですね。また、何かに挑戦したいと思った時には、先生や先輩方にいつでも相談できるので、ぜひとも自分のやりたいことを率直に発信していってほしいです。私も悩んだ時はよく先生に相談していましたが、先生たちはいつも親身になって、時には遅い時間まで一緒に手を動かしながら考えてくれました。みなさん建築に対して熱い想いを持っているので、安心してぶつかっていけます。自分の好きな建築に、前のめりになる楽しさを教えてくれるのが、生産工学部建築工学科だと思います。

手を動かして考える大切さを教わった場所 手を動かして考える大切さを教わった場所