誰のために建てるのか?本質を見つめて建築と向き合う。

外山純輝 (とやま・じゅんき)
2018年3月学部卒業 2020年3月大学院卒業
鹿島建設株式会社 建築設計(意匠設計)

※掲載内容は、取材当時のものです

鹿島建設株式会社で意匠設計に携わっている外山純輝さん。
アトリエ事務所での生産実習や、卒業設計、大学院での研究など、今の仕事につながる本学での経験を語っていただきました。

デザインを追求したくて、
日大生産工学部で建築を学ぶことを決意。

日大の建築工学科に入学することを決めたのは、友人に勧められたことが大きかったと思います。
私は一浪しているのですが、高校時代の友人がここに入学していて、「デザインを学びたいならいい環境だよ」と誘ってくれました。他大学の建築学科も合格していたのですが、その友人の言葉で入学を決意しました。

大学時代は、とにかく設計に没頭する日々でした。ひとつの課題のために模型を100個つくったり、地域に根ざした集合住宅を設計する課題のために、何度も現地に行って調査したりと、手と足、そして頭をたくさん動かしながら妥協せず建築と向き合いました。

3年生「大久保を元気にする集合住宅」課題
アパートの風呂を銭湯として開放し地域と新たな関係をつくる

4年生「新宿御苑に都市のパブリックスペースを作る」課題
都市の汽水域をテーマに,環境が溶け合う場所を計画した

生産実習で気づいた自分の強みと先生たちのサポートが、アイデアを広げてくれた。

建築工学科では、インターンシップのことを「生産実習」と呼んでいて、現場での業務に関われる貴重なチャンスになっています。私は有名なアトリエ事務所での実習を経験することができ、非常に刺激を受けました。特に、アトリエ事務所の代表に、私の作品を見ていただいた時に、「君は常にふたつのことを同時に考えているね」と、私の設計の特徴を言語化して、褒めてくださったことは印象的でした。

確かに、振り返ってみると、私はふたつの異なる要素を掛け合わせて設計のコンセプトを考えていました。例えば、「劇場×修道院」「集会所×神社」「集合住宅×銭湯」など。建築そのものだけではなく、周囲の環境やその地域の歴史や、そこで暮らす人の雰囲気などを観察した上で、複数の要素を組み合わせることで、新しいものを生み出そうとしてきたのです。第一線で活躍されている建築家の方にその姿勢を認めていただけたことで、自信を持って設計に臨めるようになり、今でも大切な軸になっています。

課題や成果をポートフォリオとしてまとめ、
自ら振り返るとともに就職に向けても発信する

生活の内側に入り込み、地域の人から本当に必要とされる建築を考える。

卒業設計は、川越市の伝統的建造物群保存地区での住民の居場所づくりに取り組みました。現地を知るため地域住民の方々にインタビューを行ったのですが、最初はなかなかお話を聞かせてもらえず苦労しました。それでも、地域のことやそこで暮らす人のことを理解することの大切さを大学で学んできたので、諦めることなく、時には、一人暮らしのおばあちゃんの家で木を切ったり、除草作業を手伝ったりしながらコミュニケーションを取ることで、生活の中に入り込んでいきました。

そうするうちに、中庭や土蔵などを見せていただいたり、地域についてのお話をを伺ったりすることができるように。地域の方が本当に必要とするものを深く見つめることができました。その結果、卒業設計を川越市長や埼玉県知事に発表する機会や、さまざまな賞をいただきました。さらに、まちづくり規範の改定に伴い修士課程では改定部会唯一の学生メンバーとして参加し、現在も調査を進めています。大学で学んできたことが学外でも認められ、このように、実際のまちづくりにまで関われるような結果を得られたのは、大きな自信になりました。

いろいろな人から講評をいただくことが、成長の機会になります。数々の設計展でいただいた批評から、「建築は誰のために建てるのか」を考えることの重要性を感じました。特に、学内の卒業設計講評会で、先生から「君は何者だ」と問われたことは強く印象に残っています。ひとつの課題から、こうした本質的な問いを突き付けられる。建築家としてどのように歩んでいくべきなのか考える上でのかけがえのない経験になりました。

卒業設計 地域の人びとの生活や希望を理解しようと
丁寧に調べ続けた

多くのことを語り合った研究室での日々。
他愛ない話も真剣な議論も、すべてが為になった。

3年生から大学院卒業まで所属していた研究室では、先生や研究室のメンバーと日々多くのことを語り合いました。課題をしながら徹夜で語り明かすこともしばしば(笑)。建築のことはもちろん、他愛もない話もあり、さまざまなテーマで話し合う中で、ものの見方や考え方を磨いていけたと思います。

自分の目にどう映るにせよ、その反対側からも物事を見るようにする。この習慣は社会に出てからも大いに役立っていると感じます。

上下のつながりの強さも建築工学科の特徴だと思います。研究室の先輩方も魅力的な人ばかり。力強い建築を作る人、緻密な設計が得意な人、CG表現が得意な人、模型表現が得意な人、理論展開が上手な人、コンセプトメイキングが得意な人…など。それぞれがスペシャリストだったので、先輩たちの知識や考え方を自分のものにしようと、とにかく近くで見て、積極的にアドバイスをもらっていました。同期のメンバーも、研究室で自分の個性や強みを伸ばして、大手ゼネコンやアトリエ系の設計事務所などはもちろん、ランドスケープやインテリア関連、石工屋や左官屋、広告まで、幅広いフィールドに就職していきました。
これだけ多種多様な人がいるなら、卒業後は研究室のメンバーだけでどんなものでも作れるね(笑)、と話しています。

昼夜を問わず一心不乱に学べる環境がある

大学院授業連携で建築学会学術研究旅行へ
インドネシア・スラバヤの都市内村落共同体
(Kampung Donorejo)にて

大学院授業連携で建築学会学術研究旅行へ
インドネシア・スラバヤの都市内村落共同体
(Kampung Donorejo)にて

数多くのOBを輩出する日大だからこそ
出会えた就職先。
今は、海外の大規模複合施設の設計に挑む。

大学生活の中で、対話を重ねながらものをつくることの楽しさを知り、多くの人と関わり合いながら立案から施工まで携わりたいと思うようになりました。

鹿島建設への入社は、日大OBの方が、建築についてとても楽しそうに話してくださる姿が心に残り、決めました。同じ建築工学科出身ということもあり、お話にとても共感しました。幅広く、多くの分野や企業に卒業生がいて、その先輩方とのつながりを活かして就職活動ができる仕組みがあることも日大の魅力ではないでしょうか。

現在は、建築設計の部署に所属し、国内の宿泊施設や高層マンション、海外の大規模複合施設のプロジェクトなどに参画しています。大学で培った、身体、空間、生活などさまざまな視点から考えるという姿勢が、今の仕事にも役立っていると感じています

学生時代に培った思考力を活かして、人と真正面から向き合う建築家へ。

現在は入社2年目ということもあり、目まぐるしい日々を過ごしていますが、不思議と不安はないです。それは大学時代に、設計の課題や研究室での討論、生産実習などを通して、知識だけでなく”思考する力”を身につけることができたからだと思っています。どんな状況になっても、考え、コミュニケーションを取り続けることでプロジェクトを前進させられるということを経験してきました。

大学受験の偏差値でいえば、もっとレベルの高い大学もたくさんあると思いますが、建築工学科は言うなれば“建築偏差値”を高めてくれる場所です。物理的な建築物そのものだけではなく、そこに生きる人や生活など、形のないものに目を向ける大切さ、多様な観点から物事を考える姿勢など、建築家として思考する力を養ってくれる環境が整っています。これからも、学んだことすべてを活かして、人と真正面から向き合う建築家として歩んでいきます。

人と向き合う大切さを学び建築の可能性を広げてくれた