日大生産工学部建築工学科

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「話すこと、興味を持ち続けること」:佐藤 美玲/Mille建築デザイン事務所(1999年居住空間デザインコース卒業)

カテゴリ :
居住空間デザインコース
更新日時 :
1999年03月30日

私は居住空間デザインコースの3 期生として平成9年に卒業、平成11 年に同大学院を修了後、設計組織ADH に勤務し、平成15 年にMille 建築デザイン事務所を設立しました。
在学中に学んだこと、実務を経て思うことを、作品の紹介と共にお話したいと思います。

「KOB」

KOB.jpeg20代の若い家族のための住宅です。これから生まれてくる子供達と日当たりのよい庭のある環境で暮らしたいという願いから、ある程度広い土地を購入したため、建築にまわせるお金があまりない状況で設計がスタートしました。建築の内容以上に、何が最もこの家族にとって必要なのか、また将来の家族像や家族構成、子供との付き合い方などについて、施主と長い時間をかけて話し合いました。もちろん理想どおりに全てが進む訳にはいきませんので、施主の求める必要最小限+α、理想の人生プラン+αのαの部分をどのように形作るかについて考えた作品です。プランはとてもシンプルなものです。大通りに面した北側は、音を遮断するために、建物の実に半分を半屋外スペースとし、南側に家族のパブリックスペースを設けました。中央のある吹抜けを挟んで、2 階には左右にそれぞれに大きなテラスと個室があります。このテラスは躯体で囲まれていて、将来部屋を増やしたい時には、上に蓋をかぶせれば屋内にすることもできます。また吹抜けの2 階部分には、家族室と呼ばれる開放的な空間があり、閉鎖された洗面所を排除して、この空間で朝夕の洗面時も家族とのコミュニケーションに使える場としました。現在はお子さんが2 人に増え、子供の着替えやオムツ替え、洗濯物の室内干しなど、大きなサニタリールームとして家族室が非常に機能していると好評でした。

「GRA」

GRA.jpeg都心の商業地に建つ、カフェ+アトリエ+住宅です。間口が5m という細長い敷地の上、長手側
の南と東側にビルが隙間なく建ち、西側にはアーケードの屋根があるため、北側のみが開放された敷地です。塔のような建物になるため、外部からの光を入れつつ、いかにレベルで分けられてしまう空間をつなげるかに焦点をおいた作品です。今まで庭を持ったことのない施主のために、2 階から4 階まで抜けたパティオを設け、ペットの亀のための水盤で遊び心を付け足しました。パティオに面して、吹抜けのあるリビングや家族室を配置し、それを基点に5 人の個室が囲んでいます。中学・高校の子供達とつかず離れずの関係が保てるようにするかも大切な要素でした。ここでの家族室は子供達の遊び場+洗面スペースです。2 階の台所にいる奥様が、吹抜けを介し、3 階で遊ぶ子供達や4 階で仕事をするご主人の様子を気配で感じられることがとても良いそうです。各部屋も1 年を通して安定した北側採光が行き届き、とても明るく開放的な住まいとなりました。

「MIY」

MIY.jpeg浅草にある神輿や太鼓・雅楽など日本の伝統芸能をあつかう老舗の本店です。土地柄日本人だけでなく、外国人観光客も多く、沢山の方が興味深そうに窓越しに見ていくものの、敷居が高いのか、店舗内部にまでは入ってこないそうです。商品そのものが簡単に購入できるものでないだけに、ミュージアムのように楽しんで見欲しいとの要望から設計依頼がありました。問題はこの店舗で扱う物が多岐にわたり、かつ特殊なものばかりなので、素人には見るだけではわかりにくいことでした。そこでまず設計に入る前に、神輿・太鼓・祭礼・雅楽・神楽・神仏・能楽・お囃子などに各商品を分類し、それぞれの内容や使い方を私自身が1 つずつ学ぶことから始めました。宮内庁や各芸能家が代々利用する老舗としての品格を保ちつつ、展示スペースは、みんなが実際に目で見て、触れて、親しみを持てる様に工夫しました。現在は興味を持って下さる方が増えたということで、日本人である一人としてこういった仕事に携われたことを幸せに感じています。

「話すこと、興味を持ち続けること」

在学中に先生方から、いろんなことに触れなさいとよく教わりました。建築、特に住宅は自分の育った環境を中心に考えがちですが、実際には生活スタイルや考え方は千差万別です。それを自分の型にはめるのではなく、その人だからという建物をつくるには、相手と話をいっぱいすること、そしてそれ以外の時も常に様々なことにアンテナを張って、興味を持ち続けることだと実感しました。またこの仕事は建物が建った後、それがどのように使われていくのかが本当は一番大切なことだとも思うようになりました。自分が満足するものが完成したとしても、実際に使う施主にとってはどうであったか、それを建てた後も継続して施主と共に話し続けていくことを重ねることによって得たものが、本当の財産だと考えます。まだまた出発点に立ったばかりですが、建築という仕事を通じて、様々な分野の方ともめぐりあうことが出来、本当に魅力のある職業だと感じています。
(平成11 年3 月卒業(曽根研究室))