日大生産工学部建築工学科

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イタリアの民泊による集落再生−アルベルゴ・ディフーゾ

カテゴリ :
教員コラム
更新日時 :
2018年12月18日

はじめに

 イタリアの山間地域の山や丘の上には小さな集落が無数にあります。そこでは仕事が少なく交通の便も悪いため過疎化と高齢化が進んでいます。しかし集落の景観は素晴らしく、人々の生活はスローライフ的に見直されています。そこでそれらを維持するために空家を客室や食堂・レセプションに改修し「集落全体をホテルに見立てる」というアルベルゴ・ディフーゾ(以降ADiと略)という取り組みが行なわれていることを「スローシティ」島村奈津著 という本で知りました。その「見立てる」という発想が面白く、日本での民泊や街並・民家の再生の取り組みにも生かすことができるのではないかと考え、2014年と2015年に7カ所のADi協会に加盟している集落を訪れてみました。その印象をスケッチしたのが下図で、ADi協会も特徴をよく表しているとhpに掲載され、政府などへの説明にも使用したようです。ADsketch 2018.jpg

アルベルゴ・ディフーゾの概要

 イタリア語でAlbergo=ホテル、Diffuso=広げるという意味で詩人の言葉からきているそうです。集落であると同時に水平に広がるホテルとしての役割も持つ、まさに「ホテルとしても見立てる」という考え方です。1976年に北イタリアを襲った震災をきっかけに、当時マルケ州の宿泊業組合の会長だったジャンカルロ・ダッラーラ氏が長い間試行錯誤しながら生まれてきた民泊システムで、その後1995年に最初のADiがサルディーニャ島にでき、それから10年かけてに各州の自治体に規程を設け、ADi協会も出来て、現在は90以上の集落が加盟するまでに広がりをみせています。実際に行ってみると「集落全体をホテルに見立てる」ということは、空家を客室やレセプションに改装し食堂やバールをホテルのレストランやバーと見なせば路地や広場はラウンジのように見えてくるのがとても面白く感じました。「見立てる」とは全面的に作り変えるのではなく、一部に手を加えると◯◯の様にも見えるということです。それはあまりお金をかけなくてもガラリと状況を変える可能性があるということでもあります。他にも大型ショッピングモールに対抗するために、集落を「ショッピングモールに見立てる」という取り組みもあるそうで、考えてみれば集落を真似たショッピングモールもあるのだから逆にそれもありえるだろうと思います。

 ADiのマニュアルの本にはADiの条件(モデル)として下記のことが記されています。

・1人の起業家(マネージャー)が管理する。(※自治体や企業では人が代わってしまうため認めていない)

・ホテルサービスは専門的である

・客室やユニットは既存の歴史的な町の中心に複数の別々の建物にある。

・集落の共有施設は、ゲストも使用する。(雑貨屋、テラスカフェ、バー、食堂、工房etc)

・客室と中心施設との距離は最大200メートル以内が望ましい。

・生きているコミュニティの存在があり、地域がホストとなる。

・本物の生活があり体験できる。

としています。そして毎年総会を行い、各マネージャーの交流をはかり意見交換を行なっています。ADiの取り組みの効果的な点は、このようなモデルを定め一定の基準を設けることで質を保っていることと、協会を作りネットワークを構築することで一般の人にも認知が広まり易いこと、各集落の特徴も調べやすく予約できるシステムができていること、そして政府や自治体にも協力を求めやすく海外にも知られてきていることでしょう。そして、料理の得意な人が朝食やお土産を作り、手の空いた人が洗濯したりベッドメイキングをし、工事のできる人が客室を増やして、集落に利益と人の賑わいをもたらしています。

AD地図 v2015.jpg 上はADiの集落をプロットしたイタリアの地図です。平地や都市にはADiが無いのが分かります。

訪れた幾つかのADiを紹介します。

①Il borgo di Sempronio

 訪れた集落の中で最もADの特徴を持っていると思ったのは、トスカーナ州のセンプローニオという村でした。フィレンツェとローマの間にあり、それらの都市から車で山の中を3時間ほどの距離にあり、カーナビがなければ辿り着けないような場所です。写真のように丘にまとわりつくように旧集落があり右手に新しい住宅街や小学校もあるおよそ人口1300人のコムーネに宿が1つレストランが4軒、雑貨屋2軒、バール2軒とともに10数室のADiが村の有志で運営されていました。近くに温泉もあり、昔の生活環境を懐かしんで訪れる都心のイタリア人のゲストが多いようです。自然の微地形を生かし応答しながら建物を建て、道をつづら折りに作られているので、山岳集落特有の歩き回っていて飽きない景観を生んでいました。

集落外観+map.jpg 左:典型的な山間の集落、頂きに教会がある。右:旧集落の路地には車はごく一部しか入れない

集落路地1.jpg

レセプション.JPG  左:旧集落の入り口にあるレセプション、上も最初の客室。左の道を少し行ったところに朝食用の食堂(右)

客室外.JPG 右:客室の外観、左右にも階下にも村人が住んでいる。左:室内、斜めの壁の裏にトイレとシャワーがある

semproniano路地.jpg

朗読イベント.JPG 左:夏の観光シーズンはイベントをよくやっている。行った時はこの村出身の詩人の朗読会を村のあちこちで行うポエトリーナイトをやっていた。翌日は小学校の校庭でクラブナイトをやっている。右: ADiの運営をしている2人、左は英語が話せるのでレセプションをやり、右は改装工事などを行うこの村出身で元ユーロポールのおじさん。後ろの壁に映しているのが村出身の詩人の写真。          

路地のおばさん達.JPG 左:客室の窓から下を見たら下にも2層あった。そして路地でずっとおばあさん達がおしゃべりをしている。イタリア人の人懐こさで、道で挨拶すると満面の笑みで挨拶を返してくれます。中:改装中壁の中を探る。右:左端が村長、自治体の協力も重要。

②Al Vechio Convent

 もう1つはフィレンツェから北東に車で3時間行ったところ、山間ですが谷の川沿いの幹線道路沿いの集落を紹介します。ここはもともと家族でレストランを経営していて、その上に人を泊めるようになり、村の空家も手に入れて民泊をするようになりADi協会に参加しました。イタリア料理を中心に、料理教室やイタリア語教室、スケッチ教室、トリュフ狩りなどイタリア文化を体験できることから、イギリスやドイツから長期滞在のグループが来ていました。al集落外観.JPG

al路地.JPG 左:集落の路地   中:レセプションとレストランのある建物    右:ぶどう棚のある庭

alトリュフ.JPG 左:トリュフ犬によるトリュフ狩り      右:川沿いの有機農場で、女主人のマリッサと

Al Vechio Convent11 のコピー.JPG 左:トリュフもふんだんに使ったイタリア料理。右:歴史を感じさせるレストラン、各国から料理を勉強しに来ている。

③S. Stefano di Sessanio  

 アブルッツォ州の荒涼とした丘の上にある古くからの集落で、今は住民は旧集落より下に住んでいるため、旧集落は中世の面影がそのまま残されている。そこをADi以外にも2つホテルが客室に改修して運営している。ここのADiを運営しているのはダニエル・キリングレン氏が率いるsextantioというグループで、⑦のマテーラも運営している。その改修方法は古いものは汚れていてもそのまま利用し、新しい設備などを対比させるように設えており、古いものを生かすデザインとしてとても印象に残るものでした。ただ、何度かイタリア中南部を襲った震災の影響も受けて、立て直すのに苦労しているようです。

ss外観.JPG

ss集落路地.JPG 左:集落の路地                右:客室の外観

客室.JPG  左右:客室、古いものと新しいものを対比させたデザイン

多くの人をを呼ばない、観光地にしない、集落再生

 ADiは2つの点でとても参考になります。1つ目は、集落環境や生活の維持が目的であり、観光地として成功することや、大勢の観光客を呼ぶことが目的ではないことが重要なようだと思いました。ゲストもせいぜい10~20組もあればよいので、村人の生活も普通に維持でき、ゲストを気負いなく迎えることができるようです。そのことは反対にゲストにとって、村人の本物の生活を疑似的に体験できるのでとても新鮮で充実感があり、それは友達を作りに行く感覚に近いように感じました。それが他の観光地では体験できないことであり、唯一無二の価値になります。そしてただ見て回りお土産を買ったりファストフードを食べるだけでなく、長く滞在して飲食や宿泊もすることで、より地域に仕事を生むことになっています。

 また2つ目に、そのような施設であるからこそ改修の方法も華美に豪華であったり便利であったりもせず、古いものをそのまま生かした改修が多く見られ、実際の生活環境につながった本物の時の重なりを肌で感じます。ましてや歴史的なものが多く残る中で新しいデザインを生んでいるイタリアでもあり、スローフードやアグリツーリスモの発祥した国だから、そのような古いものを価値として生かすことは色々と試みられているのでそのデザインの手法は強く印象に残り、古いものと新しいものや背景の多様なものを生かすデザインとしてとても参考になります。

 そのことから、補助金をとって一過性のイベントをしたり、公共施設を新設して維持費に苦労するといったことでなく、また、白川郷や美山村のように小さな集落に大型観光バスが何台も乗り付け住民の静かな生活を脅かすこともない、これまでにない地方の再生の手法としてとても参考になるのではないでしょうか。

観光旅行でないリアルな体験

 現在、世界的なツーリズムの増加がオーバーツーリズムとして問題になっています。そして、それぞれの旅行者もただの風光明媚な景色や観光スポットをゾロゾロバスで見て回るのでは飽き足りなくなっています。外国人がこれまで行かなかったような日本の田舎や、けして清潔でないようなところを訪れたり、Airbnbや二段ベッドのホステルに泊まったり、 WOOFで他の国で有機農業を宿泊して手伝ったり、そこに住んでいる人々のリアルな生活が感じられた方が面白いと感じ始めているようです。五感で感じるリアルな体験によって、同じ時代を生きている人々の豊かな日常の生活の素晴らしさを感じさせてくれるものや、そのような人と友達になるような体験を求めているように思えます。

 それは、われわれがADiのようなイタリアの田舎を訪れて、体験して感じたこととも多く重なります。ADiでは、リアルな村人の生活に触れ、商売する人と客との関係では無く人間同士のやり取りだから交流した人の顔を帰ってからも覚えているのです。観光旅行で旅行先のホテルの人の顔を覚えていることはどのくらいあるでしょう?生活するように過ごしているので、体験全体を味わう余裕があり、できごともその時間に感じたものも人の顔も後になっても覚えています。そこでの時間自体が一期一会のかけがえのない体験として感じることが出来るからだと思いました。(建築計画教授 渡辺康)

④ Borgo Tufi

Borgo Tufi外観.jpg

Borgo Tufi5.jpg

⑤Locanda Alfieri

Locanda Alfieri0.JPG

⑥Sotto le Cummerse

sotto1.jpg

sotto2.jpg

⑦Le Grotte della Civita

Le Grotte della Civita0.jpg

Le Grotte della Civita11.jpg

grotta-08-executive-suite.jpg  この写真のみsextantio hpより