日大生産工学部建築工学科

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『境界を越えること』:白井宏昌氏(特別講演)

カテゴリ :
講演会
更新日時 :
2014年12月09日

文責:M1 高橋謙太

11月26日、生産工学部津田沼校舎にてH2Rアーキテクツ代表である白井宏昌(シライ ヒロマサ)さんの特別講演が開催されました。白井さんは以下の略歴が示すように、日本と海外という国境を超えた実務経験に加えて建築学と政治学の2つの学際領域を横断し、ロンドンオリンピックにも携わられた多彩な経験を生かして活躍されている若手建築家です。

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1996 - 2001   Kajima Design 勤務
2001     文化庁派遣芸術家在外研修員
2001 - 2006   OMA(ロッテルダム、北京)勤務
2006     LSE(ロンドン・スクール。オブ・エコノミクス)Cities Programme博士課程(都市政策)
2007 - 2008   ロンドン・オリンピック・パーク設計チームメンバー
2008     IOC(国際オリンピック委員会)助成研究員
2008     シドニー工科大学、客員研究員
2010     H2Rアーキテクツ共同設立
        現在、H2Rアーキテクツ代表、滋賀県立大学非常勤講師、明治大学兼任講師
         一級建築士・オランダ建築士・博士

今回の特別講演では、「境界を超えること」をキーワードに、海外を中心とした自身の活動や経験を以下の3つのテーマに分けて話をして下さいました。
・OMAでの勤務経験の様子
・現在務められているH2Rアーキテクツでのプロジェクト説明
・ロンドンオリンピックの経験を通して見る2020年東京オリンピックのポイント

中でも、OMAの仕事の進め方に関するお話はとても印象的でした。OMAと言えば、レム・コールハースが率いる世界トップクラスの設計事務所として建築を志す者であれば誰もが知るところですが、そのOMAではとにかく手を動かして模型つくるそうです。アイデアを生み出す方法として、あらゆる可能性を試行し、片っ端から形に落とし込み、その中から取捨選択をしていくというスタイルを大切にしているとのことです。模型をつくる過程で発生するゴミでさえも、アイディアのヒントになるかもしれないと捨てないそうで、実際に模型材料の端切れからアイディアが生まれて実現に至ったプロジェクトの過程を見せていただきました。泥臭くスタンスを徹底するからこそ、世界を驚かせる建築デザインが生まれ得るのだと強く実感させられました。
もう一点、OMAが設計プロセスで大切にしていることは、"常にプレゼンの準備をしておくこと"とのことです。OMAの事務所には頻繁にメディアの人々が出入りしていて、プロジェクトの途中段階のアイディアを突然説明したり発表したりすることを求められるためだとのことですが、この"常にクリアなプレゼンの準備をしておくことこそが"膨大な情報量を扱う建築デザインの思考にとって、頭の中をクリアな状態に保つことに役立っていたそうです。

 私自身の設計課題に取り組む姿勢と比べながら話を聴く中で、自分の場合はどこから考えたらいいのか掴めず、手が動かなくなって苦しむことが多々ありますが、そのようなときはあまり難しく考えず、思い付きの発想を大事にしてとりあえず作りながら前に進むこと、そしてそれを積み重ねて行けば自ずと建築の楽しさや優れた建築デザインに辿り着けるのだというヒントを貰うことができました。

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オリンピックに関連する話では、オリンピックと都市計画の歴史に触れる中で現代オリンピックを"オリンピック・レガシー"と定義され、オリンピックを一時的な都市開発のためではなく、オリンピック後にまで目を向けて長期的な視点で考えることの重要性について、事例を使って分かりやすく説明していただきました
「鳥の巣」の愛称で有名になった北京オリンピックのメインスタジアムは、北京オリンピックの象徴としては確かに成功したかもしれないが、終わった後は全く使われずに周辺も閑散としており、莫大な維持費が問題になっているそうです。一方、白井さんも携われたロンドンオリンピックでは、北京オリンピックとは考え方を抜本的に変え、主な施設のほとんどを"仮設建築"として計画し、オリンピック後に解体することで不要な施設は残さない計画としています。東京オリンピックについても、"仮設建築"をひとつのキーワードとして後々の使い方まで綿密に計画すべきだとの考えを持たれていて、競技施設などの設計に関る企業のアドバイザーとして、オリンピックをただの短期的なお祭りとして終らせない、長期的な視点で都市環境を再考するきっかけとしていくための活動を行っているとのことです。オリンピックに求められる施設は特殊なモノが多く、すべてを要求通りに作ってしまうと"いらないモノが多く残ってしまう"と話されていたことは、昨今話題になっている新国立競技場のデザインに象徴される東京オリンピックが直面している課題でもあり、もっと関心を持たなければならないことなのだと改めて実感させられました

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白井さんは海外で多くのキャリアを持たれていますが、言葉のハードルについて「建築はビジュアルで伝えることができるので、極端なことを言うと英語は話せなくても大丈夫であり、むしろ、多国籍な集団になったときにシンプルなコミュニケーションが求められ、語学力よりも恐れずにコミュニケーションを積極的にとることが大事になる」と話されていたことが印象的でした。これから社会は益々国際化し、海外で働く機会も増えていくと思いますが、海外に行くことに対して"言葉のハードル"を感じている学生は多いですし、私もその一人です。しかし、決断力と行動力を持って海外に果敢に飛び込まれた白井さんの話に非常に刺激を受け勇気をもらうことができました。社会に出ることがゴールではなく、現状に満足せず常に新しいことを求めていく貪欲な姿勢を持ち続けることの大切さを気付かせてくれた貴重な講演でした。

最後に、貴重なお話を聞かせて下さった講師の白井さんに心より感謝申し上げます。